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フェレール・ボベ・セレクシオ・エスペシャル

フェレール・ボベ・セレクシオ・エスペシャル

不明が紡ぐ、物語に刻まれた一口

第39巻 #380

スペイン
地域
カタルーニャ地方(プリオラート)
葡萄
カリニェナ主体
年代
2008年
生産者
フェレール・ボベ
登場巻
第39巻 #380
666677酸味タンニンボディ果実味余韻複雑さ63/ 100

総合 63 / 100

神咲豊多香の手紙

このワインには風が吹いている。情熱を求めて彼の血を訪れし時、私は知った。汗を鎮めてくれる風、その清々しさ、灼熱の大地に吹く風の豊かさを。この夕陽を刻みつけたワインをグラスに注いだ時、私には色とりどりの風が見えた。風がなぜ一抹の寂しさを帯びているのか、答えは風が常に去ってゆくものだからなのかもしれない。私は風に運ばれて天空に舞い上がる。限りない大地の豊かさを離れた空から見下ろす時、いつか自分に訪れる永訣の時を思わずにはいられないのだ。その時思い出すのは家族が揃っていたあの幸福なひとときである。出会いともに暮らし、苦しみ愛し合い、ずっとずっと与え続けた日々が風とともに遠ざかっていくのを見つめながら私は佇む。そして初めて知るのだ。別れこそが総ての始まりであることを。太陽よ降り注げ、生命を育むがよい。雨よ濡らせ、大地を潤し、生きとし生けるものを癒すがいい。風よ運ぶがよい。命を宿しし種子を新たな天地へと。私はただ見送る。樹のように佇みながら、ふと瞳の奥を射る燃えるような夕陽。天地に織り成す光と影の物語。火照りを和らげてくれる風だけが優しく頬を撫でてくれる。さらば愛しき者よ。お前は私であり私はお前でもある。天に向かい永遠に伸び続ける樹のような大地の奥にもくもくと張りゆく根のような。風に乗りどこまでも旅する種子のような。そんな人生であれ。風よ、私をどこに連れていってくれるのだ。太陽よ、私をどこから見守ってくれているのだ。今度こそ私はこの地平から旅に出る。生きて生きて生き抜いてきた今だからこそ出られる創造の旅へと。人生を回想する時、そこに私は愛するが故の決別がある。決して振り返らない後ろ姿を。いつまでも眺めていられる自分の強さ、優しさ、理解。無からもう一度始められることへの情熱と期待。新たなる旅立ちの予感。いつの日かお前たちも見るだろう、この夕陽を。そしていつか感じるだろう。このワインは太陽とともに去りゆく風である。

聞いとけ。グラスを傾けた瞬間、これはただの赤じゃないと鼻が先に吠える。酸と果実が押し合い、タンニンが背骨になって、余韻がなかなか帰ってこない。フェレール・ボベ・セレクシオ・エスペシャル(2008)——飲んだら誰かに話したくなる、そういう熱量の一本だ。