第十使徒
グラン・エシェゾー

ロベール・シュルグが紡ぐ、物語に刻まれた一口
第34巻 #330〜
- 国
- フランス
- 地域
- ブルゴーニュ(グラン・エシェゾー)
- 葡萄
- ピノ・ノワール100%
- 年代
- 2002年
- 生産者
- ロベール・シュルグ
- 登場巻
- 第34巻 #330〜
総合 63 / 100
神咲豊多香の手紙
ここは夜なのか、それとも地の底なのか。激しい生命力を孕みながら私は種子のようにその時を待つ。生きることの意味を探し続けて彷徨うことは決してたやすくはない。それは時に振り返り、時に駆け出し、立ち止まって思い悩むことの繰り返しなのだ。胎動そして誕生。闇を這い登り、光の誘惑に導かれ、目指すものはまだ見ぬ空。地の底とめくるめく外界を隔てる地平を突き抜けて私は木の芽のように天にその手を伸ばす。光だ。待ち続けた光。私は一気呵成に果てしない空を目指し巨木となり天に向かって行く。眼下に広がる大地、生命の坩堝、土、水、草、花、獣、人はもちろん小さな虫けらまでも私は今虚空から俯瞰している。胸に一節の歌が浮かんだ。「花に鳴く鶯水に住むかはづの声を聞けば、生きとし生けるものいづれか歌をよまざりける。力も入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女のなかをもやはらげ、猛き武士の心をもなぐさむる歌なり」。宇宙から望む地球とはかくなるものか、闇の直中に浮かぶ優しき輝き、命の源。このワインは魂である。このワインは俯瞰した大地である。このワインは宇宙の広がりである。そしてこのワインは「希望」である。
聞いとけ。グラスを傾けた瞬間、これはただの赤じゃないと鼻が先に吠える。酸と果実が押し合い、タンニンが背骨になって、余韻がなかなか帰ってこない。グラン・エシェゾー(2002)——飲んだら誰かに話したくなる、そういう熱量の一本だ。