第七使徒
シネ・クア・ノン 2003 ザ・イノーギュラル・イレブン・コンフェッションズ・シラー

不明が紡ぐ、物語に刻まれた一口
※毎年ワイン名やラベルが変わる
- 国
- アメリカ
- 地域
- カリフォルニア、サンタバーバラ、サンタリタヒルズ
- 葡萄
- シラー
- 年代
- 2003年
- 生産者
- シネ・クア・ノン
- 登場巻
- ※毎年ワイン名やラベルが変わる
総合 63 / 100
神咲豊多香の手紙
そのときの私は自信に溢れていた。荒野にひとり佇もうとも、深い森をひとり彷徨おうとも、道を失おうとも、あるいは大海に浮かぶ小舟にただひとり揺られようとも、決して動じることはない。そう思い込んでいたのだ。群れを離れた若獅子のごとく猛々しく振る舞っていた自分を、私はこのワインをグラスに注ぐ。そのたびに思い起こさずにはいられないのである。その香りは私を捕らえて放さない。懐かしい過去のように輝かしい未来への空想のように。私はたまらずに手を伸ばしそれを味わう。どこまでも高い空、見渡す限り広がる地平線。そして確固として動じない大地。私は我が身の矮小さを思い知らされる。遠くから地鳴りのように厳かに、潮騒のようにたおやかに聴こえてくる一本の旋律。それはひとつ、またひとつ重なり合い、荘厳にして複雑なバロックとなって私をとりまきどこまでも鳴り響いてゆく。それは巨大な蟻の塔のように見える。それは群衆の叫びのようにも感じる。それは天を支える聖なる柱のように聳えている。それは訴えてくる。祈るがいい。神にではなく人の力に。目指すがいい、天ではなく声のするほうを。我が身を見失いし者よ。驕り昂り、それ故に人に見放されし者よ。日々を生きることに振り回され、あるいは目まぐるしい時の流れにただその身を委ね、揺蕩うだけの者たちよ。掌を開き漲る力を確かめ、そしてこの地を訪れるがいい。ここには永遠に終わらぬ夢がある。ここには大いなる未完成が佇んでいる。アントニ・ガウディ。あなたは信じていたのだろうか。人々が諦めることを知らず、あなたの夢を紡ぎ続けるだろうと。幾多の若者たちが西から、そして東の果てからも集い、何を求めるでもなく、槌を振るい、鏝を操り、汗を流すことを厭わず、力の限りあなたの描いた夢のその先を、ともに創り続けるこの奇跡を、あなたは信じていたのですか。このワインは永遠の未完成サグラダ・ファミリアである。
聞いとけ。グラスを傾けた瞬間、これはただの赤じゃないと鼻が先に吠える。酸と果実が押し合い、タンニンが背骨になって、余韻がなかなか帰ってこない。シネ・クア・ノン 2003 ザ・イノーギュラル・イレブン・コンフェッションズ・シラー(2003)——飲んだら誰かに話したくなる、そういう熱量の一本だ。