第四使徒
シャトー・ラフルール

シャトー・ラフルールが紡ぐ、物語に刻まれた一口
第15巻 #139〜
- 国
- フランス
- 地域
- ボルドー(ポムロール地区)
- 葡萄
- メルロー50%、カベルネ・フラン50%
- 年代
- 1994年
- 生産者
- シャトー・ラフルール
- 登場巻
- 第15巻 #139〜
総合 63 / 100
神咲豊多香の手紙
私は5月の晴れ渡った空の下にいる。そこは大樹の下で優しく陽を遮る陰に守られながら光り輝く庭園を眺めていた私はふと携えていた一冊の古い本を繙いた。
「まだあげ初めし前髪の林檎のもとに見えしとき前にさしたる花櫛の花ある君と思ひけりやさしく白き手をのべて林檎をわれにあたへしは薄紅の秋の実に人こひ初めしはじめなり わがこゝろなきためいきの その髪の毛にかゝるとき たのしき恋の盃を君が情に酌みしかな 林檎畠の樹の下に おもづからなる細道は 誰が踏みそめしかたみぞと 問いたまふこそこひしけれ」
私はゆっくりと立ち上がり、そらんじたその詩を口ずさみながら花咲く庭園をそぞろ歩く。遠い記憶の中で甘く微笑む少女を想いながら、芽吹く青葉の香りと足元から立ちのぼる雨上がりの土の香りに酔いしれて......いつの間にか私は庭園の直中に佇んでいた。紅色 櫻色 赤紫 そして白妙の鮮烈な花のハーモニー 。私はその中から赤紫の一輪をそっと摘みとり、いつか少女とともにそうしたように蜜腺を吸った。混じり気のない透明な仄かな、そして自らを語ろうとしない無口な甘さが、記憶の中の少女の微笑みと甘い口づけに寂かに連なっていく...そのワインは初恋の人に似ている。
聞いとけ。グラスを傾けた瞬間、これはただの赤じゃないと鼻が先に吠える。酸と果実が押し合い、タンニンが背骨になって、余韻がなかなか帰ってこない。シャトー・ラフルール(1994)——飲んだら誰かに話したくなる、そういう熱量の一本だ。