第二使徒
シャトー・パルメ

シャトー・パルメが紡ぐ、物語に刻まれた一口
第8巻 #76〜
- 国
- フランス
- 地域
- ボルドー(マルゴー村)
- 葡萄
- カベルネ・ソーヴィニヨン 48%、メルロー46%、プティ・ヴェルド6%
- 年代
- 1999年
- 生産者
- シャトー・パルメ
- 登場巻
- 第8巻 #76〜
総合 63 / 100
神咲豊多香の手紙
このワインは「モナ・リザ」である。私はフィレンツェからピサへ向かう街道に車を走らせていた。中程まで来た頃だろうか。ふと古いロマネスク様式の教会が目に留まり車を止めた。車を降りた私は樹齢数百年のオリーブの古木を庭に植えた古い家並みを、たわわに実った葡萄畑を抜けて村の中心部へと歩いて行く。ローマ時代の石畳の道をゆっくり登り詰めて行くと、一軒のレンガ造りの古い家にたどり着いた。私はその家に暮らす者が誰なのか興味を持った。不思議な気配を覚えたからだ。この小さな町のどこにでも見かけるようなただの古い家なのに、そこには完璧な美と理路整然とした調和を生み出す不滅の魂が確かに宿っていた。私はその家に踏み入った。その瞬間、私の魂ははるかな時を遡り美と謎にとらわれた一人の芸術家と邂逅したのである。彼は私を自分のアトリエへと誘った。高い窓から降り注ぐ午後の陽光は黒い布に覆われた2枚の小さな絵画を照らし出していた。芸術家は私を絵の前に立たせ謎を描けるように布を取り払った。2枚の絵はいずれも婉然と曖昧な微笑みを浮かべる女を描いたもので見分けがつかないほどよく似ていた。芸術家は私に尋ねた。「お前はどちらを愛するか?」と。私は尋ねた。「このふたつの絵はいつ描かれたのか」芸術家は答えた。「右の絵は夏に描いた」「左の絵は春だ」。それを聞いてもうひとつの質問を投げかけた。「このふたつの絵はいったい誰を描いたものだ」と。芸術家は再び答えた。「左の絵は子を宿したばかりの女だ。右の絵は.....」言いかけて芸術家はいたずら小僧のように微笑み私に向かって言った。「右の絵のモデルは教えられない」。私は改めて2枚の絵を見比べた。右の絵はより力強くまだ絵の具の乾ききっていない若々しさが溢れていた。対する左の絵は完成された柔らかさと慈しみが溢れ、私の心を真綿のような優しさで包み込んでくれた。私はすべてを悟って答えた。「私が愛するのは左の絵だ」と。
聞いとけ。グラスを傾けた瞬間、これはただの赤じゃないと鼻が先に吠える。酸と果実が押し合い、タンニンが背骨になって、余韻がなかなか帰ってこない。シャトー・パルメ(1999)——飲んだら誰かに話したくなる、そういう熱量の一本だ。